タイムリーな本たち

 

今、感染症関連の本が売れまくっているらしい。

何故か?もちろんアイツのせい。

 

私が憎んでも憎んでも足りず、恨んでも恨み足りない新型コロナ。

そして恐らく誰もが、できることなら思い付く限りの残忍な方法でコテンパンにしたいと思っているアレ。

これまでも散々文句を言い散らしてきたけれど、いくら言っても言い足りないから当分罵倒し続けることになるであろう、アレ。

 

 

私は数年前に突発的衝動に駆られて幾つかの感染症関連の本を読んだ。自分以外に需要があるかは分からないが、自己満足と記憶の整理のために残しておこうと思う。

 

完全フィクションのただ読んで楽しめる物語が2冊。きちんとした文献を基に書かれたノンフィクションが2冊だが、ノンフィクションであっても理数系全般にアレルギー兼医学知識が皆無な私でも読んで理解できたものなので、多分誰でも読めるやつ。

端的に言えばド素人でもするっと読めて、気付いたら勉強になってるかも…なお得な本たち。

 

どれも偶然コロナ流行以前にただの趣味の一部として読んでいたが、純粋な興味以上に勉強になることもあったので読んでおいたのはラッキーだったなぁと思っている。

(ちなみにここで取り上げるノンフィクション本2冊はいずれも感染症の歴史の本。少なくとも1年以上前に読んだものであり、曖昧な点があるかも。あと、★付けは完全なる主観)

 

ただし、やっぱりテーマは感染症。明るい!爆笑!とはいかない。このご時世に読むのはタイムリーでむしろいい!楽しめる!という人もいれば、不安感が増したり憂鬱になったりする人もいるだろう。もし気になる方がいても、そこは自己判断でお願いしたい。

 

それでは、とりあえず私が読んだ順番にまとめよう。

 

 

 

1 .「ドゥームズデイ・ブック(上下)」 コニー・ウィリス/大森望 (1992) (2003年ハヤカワ文庫にて文庫化)

読みやすさ★★★★

リアリティ★★

 

  • ジャンル分けするならSFに分類される小説。文章的にもストーリー的にも読みやすいが、上下巻共にやや分厚いので読みやすさは星4。小説ながら著者が綿密に資料を調べたと想像される文や描写があるので、リアリティは星2。

 

  • あらすじ

近未来、タイムトラベルが可能となった世界のオックスフォード大学史学部では、タイムトラベルを活用した歴史研究が行われていた。主人公キヴリンは中世イギリスでの市民の生活を調査するためにタイムトラベルをするが、誤ってペストが蔓延し始めた時代へと飛んでしまう。一方、キヴリンを誤って危険な時代へと送り出したと気付いた大学の方でも謎の病が広がり始めていた。

 

私の大好きな作家、コニー・ウィリスの著作。大学時代の試験前日になぜか読み始め、止められなくなった記憶のある思い出深い(?)一冊。ジャンル分けするとSFだが、宇宙人も謎のメカも出てこないのでSF初心者でも難なく読める。作中での "現在" と主人公がタイムトラベルした先の中世イギリス、2つの時代の話が同時並行で進む。どちらの時代でもそれぞれに危険な感染症が流行し、その対応をしつつ主人公が元の時代へと戻るための手段を探る。  (※「笑える本」で取り上げた同著者のシリーズ1作目!!)

コニー・ウィリスの作品の特徴は、ユーモアが溢れているところ。本作も登場人物達が2つの時代でそれぞれ過酷な出来事に直面するが、その最中にあっても人間らしさが垣間見える。"現在" 側の登場人物の一人が、感染症よりもトイレットペーパー不足を心配するシーンがある。読んだ当初はクスッと笑ってしまったが、あれ…現実になったじゃん…。となったところからもそれが窺えると思う。

 

 

 

 

 

2 .「世界史を変えた13の病」 ジェニファー・ライト/鈴木涼子 (2018) 原書房

読みやすさ★★★★

リアリティ★★★★★

 

  • ノンフィクションで文献一覧もあるので、リアリティは星5にしておいた。内容もエッセイ的でユーモアも多く、普通に楽しい読み物としてもおすすめできる。読みやすさ星4の理由は、文庫化されていないこと。

 

タイトル通り、世界史を変えた13種類の病を取り上げている。ペスト、コレラ天然痘結核スペイン風邪…。これらのメジャーなものから少しマイナーなものも含んで、その感染症の時代で人々はどう反応したか、対処したかが書かれている。医学が発達した私たちから見るとバカげて見える治療法も盛りだくさん。しかし、顕微鏡が無くウイルスの存在を知らない時代の人々が必死に戦う姿には、学ぶところが山ほどある。

先述したように、語り口が軽快で読みやすく面白いのでとてもおすすめ。

 

世界史を変えた13の病

世界史を変えた13の病

 

 

 

 

 

3 .「疾病と世界史(上下)」 ウィリアム・H・マクニール/佐々木昭夫 (1976) (2007年中公文庫にて文庫化)

読みやすさ★★

リアリティ★★★★★

 

  • 新書や論文的な文章とアプローチなので、人によっては読みづらいかも。しかし文献数が多く、理論と理由がしっかりと書かれているため、リアリティは抜群。

 

上述では人によっては読みづらいかもと書いたが、特に予備知識は必要無い。文章を読むのに慣れた人なら難なく読めるレベルだと思う。あくまで人をメインに据えた「13の病」とは違うアプローチで、ウイルス・細菌の生存戦略という方向からも書かれているのが面白く、とても勉強になる。ちなみに著者は著名な歴史家であり、考察の仕方が鮮やかで興味深い。そういう面でも勉強になるかも。

 

疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)
 

 

 

 

 

 

4 .「ペスト」 カミュ/宮崎嶺雄 (1947) (1969年新潮文庫にて文庫化)

読みやすさ★★★★

リアリティ★★★★

 

  • 小説であり、難解な表現も無い。しかし、登場人物たちの哲学的なやり取りや問いが出てくるので、苦手な人は苦手かも?メインキャラクターをはじめ、登場する人々の思考や行動にリアリティを感じる。(あくまで主観)

 

あらすじ

アルジェリアのオラン市で、ある朝、医師のリウーは鼠の死体をいくつか発見する。ついで原因不明の熱病者が続出、ペストの発生である。外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に「悪」と闘う市民たちの姿を年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む「不条理」と直面した時に示される人間の諸相や、過ぎ去ったばかりの対ナチス闘争での体験を寓意的に描き込み圧倒的共感を呼んだ長編。 (Amazon.com商品ページより引用)

 

この小説の面白いところは、ペストという疫病そのものとの戦いというより、そこに直面した人々の行動や感情に焦点を当てているように思えるところである。メインキャラクターはたちはそれぞれ少しずつ異なるタイプの人間たちであり、考え方も行動も違う。同じ場所で同じように疫病の脅威に曝されながらも、皆が同じという訳ではない。しかしながら、どの登場人物にも感情移入できる所があるった(少なくとも私はそうだった)。

 

ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

  • 作者:カミュ
  • 発売日: 1969/10/30
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

 

 

 

これらの本を読んでの非常にざっくりとした感想を言うと、「感染症ってどうしようもない」。バイオテロか何かで故意にバラ撒かれたのでなければ、仕方がないと言う他無いのだ。(それが物凄く腹立たしいし、分かっていても文句は止まらないけれども)

感染症は普段思っているよりも身近なものだ。インフルエンザ、おたふく風邪エイズマラリア……

この先たとえ今回の新型コロナを抑え込めたとしても、何ヵ月か、何年か、何十年後かには必ずまた別の感染症に悩まされることになるだろう。

 

その時のためにも、今はまず自分ができることを把握して対処すること。そして、今回のことから教訓を得ること。(なかなか難しいと思われるが)