ミュージカルANASTASIAを見に行った話とエンタメが大好きな話(備忘録)

 

(今日は少し真面目なお話を。

3月に観劇したミュージカルと併せて、当時から今までもやもやっと考えていたことをまとめてみた。

あらかじめ断っておくが、これから書く中で出てくる感想や考えはただの私(素人)の個人的なものである。ただの長めの備忘録的な何かでしかない。)

 

 

 

3月25日、私はミュージカル「ANASTASIA」を観劇してきた。

この作品はロシアの"アナスタシア伝説" (ロシア革命の際に家族と処刑された王女アナスタシアが実は生き延びていた…というもの)を元にし、アカデミー賞2部門にノミネートされたアニメ映画「アナスタシア」を元に製作された作品だ。ブロードウェイで人気を博しロングラン上演となり、北米やヨーロッパ各国でも上演された。

その作品の日本初演、日本人キャストによる公演が実現するということでプロモーションも活発に行われ、注目度も高い作品だった…と思う。(昨年末のFNS歌謡祭ミュージカル特集にも参加していた)

 

主演は木下晴香、葵わかなのWキャストで、他のキャストには海宝直人や山本耕史など名だたる俳優達が名を連ねた。(敬称略)

当初の予定では3/1~3/28まで東京で、4/6~4/18まで大阪で公演が行われる予定だった。

しかし新型コロナウイルス対策の結果、実際に幕を開けたのは東京全34公演のうち14公演。大阪で予定されていた全18公演は中止となった。計52公演のうち38公演が中止されたことになる。

実施できた東京の14公演も、予定されていた初日からずれた上に公演再開と公演中止を繰り返すこととなった。

(メインキャストの一人、海宝直人さんに至ってはたったの1公演しか舞台に立てなかったという)

 

このような状況の中で、私は観劇することができたのだ。

とはいえ、最初に取ったチケットの回は中止となったため、改めて取り直した上でその公演が行われるのかハラハラしながら毎日情報を確認していたのだが……

何はともあれ幸運だった。

 



〈入り口の液晶〉
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〈私が観た回の出演者〉
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〈作中に出てくるオルゴールのイラスト〉
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会場ではまずスタッフさんによる検温(額にかざすと一瞬で体温を計れる凄いやつで)。次にチケットもぎりを抜けると、アルコール入りのスプレーを持つスタッフさんが。この段階があると聞いていたので、劇場に入るまでに時間がかかるかと思っていたが、想定外のスムーズさに驚いた。(そういえば、この作品では劇場に看護師の配置もしていたそうだ)

当たり前かもしれないが、スタッフさんも観客も全員マスクを着けていた。この頃は世間的にまだマスクを着けている人は全体的に見ても半数強…くらいだった(と思う)ので、スタッフさんが皆マスクを着けている光景は私には見慣れないもので、やや驚いた記憶が残っている。

 

劇場へ入っても当たり前に皆マスク姿。そして記憶が定かではないが、「携帯電話をオフにしてね、撮影はやめてね」というような看板を持って歩くスタッフさんの後ろにもう一人、「マスクを着けてね、咳エチケットよろしくね」のような内容の看板を持って歩くスタッフさんがいたのがいつもと違っていた。

また、劇場内の案内係のスタッフさんがマスクらしきものを携帯していて、マスクを着けていない人がいたら渡す用かな?と思った。ここも記憶/感想共に定かではない。

それと劇場内で、前方・センターブロックの"良い席"も含めてちらほら空きが見られた。他の多くの演目と同様に、「ANASTASIA」も感染への不安を持つ人、行けなくなった人達に無料でキャンセルを受け付けていたからだろう。

 

余談になるかもしれないが、この時点では世間はおおよそ普段通り飲食店も娯楽施設も営業され、私も満員電車で普通に仕事へ出ていた。しかし、この状況下で行われたコンサートやイベント、舞台(特に目立ったのは宝塚)へのバッシングは大きかった。私の体感としてはこの当時、できうる限りの対策をした劇場で観劇するよりもよっぽど、電車内や繁華街の方がリスクが高いと感じ、「なぜエンタメ業界だけ?」と疑問と不満を感じていた。

急だった出来事に様々な側面からしっかり対応されたスタッフの方々には感謝と尊敬の念が耐えない。

 

 

 

また、対策のどうこうに関わらず「ANASTASIA」は素晴らしかった。

 

まず何と言っても、素晴らしく美しい音楽たち。繊細なメロディで郷愁を感じさせられたメイン曲「遠い12月」、ダイナミックなメロディにワクワクし盛り上がる「俺のペテルブルク」、ヒロインの決意を見せつつ後半への期待が高まってゆく「過去への旅」……

書ききれないが、全ての楽曲が最高に美しく、私は帰る途中にブロードウェイオリジナル版のサントラを注文した。今後日本語版が出たらそちらも購入すると思う。

 

そして、衣装/セットも素晴らしかった。場面ごとにガラッと印象の変わるセットや背景プロジェクションと衣装、照明。持てる限りの技術を駆使して表現された舞台は同じ場所で展開されているとは思えない程に"その場" の雰囲気を映し出していた。

 

それから、もちろん役者さん。私が観た公演の木下晴香さん、相葉裕樹さん、山本耕史さん、大澄賢也さん……。全てのキャラクターが舞台上で生きていて、感情や息遣いが手に取るように伝わった。

 

 

観劇の結果一番強く感じたのは、生の舞台の素晴らしさだ。家でドラマを観るのとも、映画館で映画を観るのとも違う独特の空気、緊張感。

物語が終わってカーテンコールで見られる、キャラクターを "脱いだ" 役者さん達に対する称賛と、開放的な気持ち、一緒に観劇した人々との一体感……。生の舞台でしか味わえない感覚がそこにはあった。

 

 

その後「ANASTASIA」は、予定されていた東京千秋楽日が前倒しされ、その後の大阪公演も中止となった。自分の4月・5月と入れていた観劇予定の心配をしつつ、とても悲しくなったのを覚えている。

私は観劇経験が少ないが、そんな私でもはっきりと感じたこの作品に対する役者・スタッフさん達の気合いの入り方と、投じられたであろう控えめに言っても決して少ないとは言えない資金。そしてこの作品を楽しみにしていた多くの観客。

(ちなみにこの作品は宝塚版が宝塚大劇場→東京劇場で8月末にかけて予定されているそう。上演できる環境になっていますように。)

 

 

この作品以降、私が観劇を予定していた複数の演目はどれも全ての公演中止が決まった。

作品の素晴らしさと共にタイミングとしても、私がこの日観劇できたのは本当に幸運だったと思うし、それが他演目の中止に落胆する中での慰めともなった。

 

 

 

しかし、同時に不安にもなっている。5月末までの緊急事態宣言の延長が決まった。状況から見てそれは仕方のないことだと思う。ただ、緊急事態宣言が終わったとして、劇場が開けるのはいつになるのだろう。状況がコントロールできるようになっていたとしても、観劇した当時のような世間からの厳しい視線を浴びてしまわないだろうか。

そしてそれまでの間に劇場、役者、スタッフ、関係者達が失い続けるであろう、そして既に失ったであろう損失に思いを馳せて、そこに対する現状での支援の状況を見ると、悲観的にならざるを得ない。

 

もちろん、補償をしようとしても財源には限りがあるのは分かる。しかし、今回のことでエンタメ業界が "不要" であるかのような環境に置かれた(ている)のは納得ができない…というか、悲しい。

風俗営業従事者への補償の時にも感じたが、"必要" な業種と "不要" な業種の境界はどこにあるのだろうか。"不要" な業種など、果たしてあるのだろうか?

 

 

…話が少し逸れるが、日本はこれまで "クールジャパン戦略" を打ち出して海外へのPRを行い、"観光立国" を目指すことでの経済成長を狙ってきた。この政策の影響かは分からないが、私がこれまで話した日本に興味を持つ外国人の大多数は、日本の文化芸術(特にアニメ・ボカロ・アイドルなどのエンタメ系)を知った事で日本という国に興味を持ったと話していた。1度訪れた観光客に再び来ようと思ってもらうきっかけとしても、文化芸術やそれに関するイベント等は有効だろう。

つまり、経済政策的にも文化芸術は大きな武器と言えるのではないか。この世界的な混乱が、感染対策面でも経済的にも戻った時に再び海外から人を呼び、経済を回す上でも重要となるはずだ。先のことにはなるだろうが、それを見据えようとした時に状況を再建できなくなっていたなら、それは経済的側面から見ても大きな大きな損失になるのではないか。…どうだろう?

 

 

素人の御託を並べたが、少なくとも私にとってエンタメは "必要" かつ不可欠なものだ。生きる目的と言っても決して過言ではない。

不安定な状況の中で観劇できた経験からそれを痛感したし、今も様々な工夫でエンタメを届けようとしてくれている人々からも、同じことを感じている。

 

確かに今は、我慢の時だ。早期に再開させろとは言わない。

ただ、状況が整ったと言えるようになった時、あらゆる意味でまた再びエンタメを楽しめる環境が戻ってこられるようにと心から願っているし、個人的にそのための支援の状況には注視していきたいと思っている。

そして願わくば「ANASTASIA」が再演されること、そして今回観劇できなかった作品たちを観られる日が来ますように。

 

 

 

最後に、印象的だったドイツの国務相の言葉を。

 

 

「文化は平穏な時だけの贅沢品ではない」

 

 

 

 

 

 

関連と参考のリンク

 

時論公論


「文化・芸術の灯を消さないために」(時論公論) | 時論公論 | 解説アーカイブス | NHK 解説委員室

 

井上芳雄さんが書かれた記事〉


新型コロナで公演中止 俳優たちの心中は(井上芳雄)|エンタメ!|NIKKEI STYLE

 


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